モハメド・エラリアン氏:利下げするとスタグフレーションになる
前回に引き続き、モハメド・エラリアン氏のブルームバーグのインタビューの内容をお伝えしていきます。
利下げを行うとスタグフレーションになる
エラリアン氏は、今後FEDが取りうる施策について、以下のように述べています。
彼ら(FED)が取りうる最悪の手段は、「信用収縮が起こるから、利下げを行おう」というものだ。もしも彼らがそうしたなら、私たちはスタグフレーションと金融不安に陥る。
エラリアン氏は、金利を高く保ったままで、金融不安の対策を行うことができるという意見を持っているようです。彼が賞賛しているのは、3月の銀行危機の中でも断固とした利上げを実施したECBのラガルド総裁の対応です。
私はラガルド総裁の発言は完全に正しかったと思う。その発言とは「金融政策において、政策金利はインフレ率を目標としており、そしてそれ以外の全ての政策手段は金融の安定を目標としている。これらを混同してはいけない」というものだ。ECBはそれを理解しているが、FEDはそれらを混同するリスクがある。
例えば、FEDは現在、金利は高く保ったままで、取付騒ぎに対応する銀行への融資プログラムを通じて、実質的な量的緩和を行なっています。
エラリアン氏は、この政策のままで十分だと判断しています。逆に利下げまで行ってしまうと、インフレ第二波を引き起こしてしまうため、それは将来的にさらなる利上げを必要とすることになる。結果、銀行はさらに債券投資の含み損を抱えて、金融不安は高まってしまうということです。
そもそもFEDの利上げ開始が遅かったことが、今の高金利に繋がり、3月の銀行騒動が起こったわけですから、利下げを行なってはならないというエラリアン氏の指摘は誠に最もだといえるでしょう。
私にとっては、今回のような事態はまったくサプライズではない。インフレは一時的だと解釈した過ちや、十分に早期に利上げを開始しなかった過ちが、急速な利上げという結果につながり、今回のような事故につながった。
サマーズ氏も似たような指摘を行なっており、著名な経済学者の目線からみると、政策金利を高く保ってインフレを抑えつつ、その他のあらゆる手段で金融や経済の手当をするというのが、ある種のコンセンサスとなっているのでしょう。
利下げなしで金融不安の対策を行うことは可能か
一方で、実際にファンドを運用して投資を行なっているガンドラック氏やレイ・ダリオ氏は口を揃えて、FEDは利下げや金融緩和に乗り出すだろうとしています。
ガンドラック氏は、「取付騒ぎを抑えても、長期的な銀行預金の流出はFF金利と預金金利の差が根本原因なので止まらない」としており、最終的にFEDは利下げを迫られると考えています。
多くの人々は、米国6ヶ月国債が当時で5%、今でも4.5%や4.25%といった金利がある中で、自分の銀行預金の利率があまりに低いということに気付いていなかっただろう。これだけ新聞やニュース番組で報道されたのだから、人々が銀行に預金していることで4%の金利を手放していることに気付いて、GDPに占める預金の割合が大きく下落しても驚かない。
これは銀行預金の流出がシリコンバレー銀行の問題が顕在化するよりも随分と前から始まっていることを見ても一目瞭然です。
つまり、高金利をやめない限り、その他の手段で信用収縮や経済危機を止めることはできないというのがガンドラック氏の意見であり、インフレと経済危機を天秤にかけた結果、利下げに踏み切ってしまい、インフレの第二波を引き起こすということです。
FEDは利下げを行なってしまう可能性が高い理由
さて、高金利をやめなくとも経済対策はできるというエラリアン氏の意見と、高金利が根本原因であり利下げなしに経済対策はできないというガンドラック氏の意見は割れています。
しかし、双方ともFEDが結局利下げを行なってしまうのではないかという点では一致を見ています。
彼らがすべきことと、彼らが実際に何をするかの予想を話そう。彼らがすべきことは、私たちの知らない何かが実体経済で起こらない限り、金利を高く保つことだ。彼らが実際に何をするかについては分からない。FEDは過度にデータに依存しているが、影響が現れるまでに時間のかかる金融政策を行っているときには、すべてのデータに反応することは適切ではない。戦略的に金利に固定する必要があるが、FEDはそれを失ってしまった。
エラリアン氏は、FEDが短期的なデータによって金融政策の判断を頻繁に変えがちであり、それが彼らを金融緩和に向かわせてしまうと考えていることが分かります。
結論:インフレ第二波の有無を丁寧にウォッチする
※以下はニュースレター(無料)登録者向けの限定コンテンツです。