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ハワード・マークス氏:商業用不動産から次の破綻が始まる

ウォーレン・バフェット氏やチャーリー・マンガー氏も愛読していると言われている、オークツリーキャピタルのハワード・マークス氏のメモが更新されました。今回は、その内容について見ていきたいと思います。

シリコンバレー銀行の破綻に関する固有の問題


まず、シリコンバレー銀行が破綻した理由については、本ニュースレターでも過去にお伝えしてきた通りです。

改めてざっくりと説明すると、以下のようになります。

  1. 新型コロナ禍の量的緩和と給付金で預金が大幅に増えた
  2. その預金をデュレーションの長い債券に投資していたが、2022年の利上げで大きな評価損を出した
  3. 心配した預金者が取り付け騒ぎを起こし、債券の売却(評価損の確定)を迫られて破綻した

本メモにおいて、ハワード・マークス氏はこうした仕組みを解説した上で、まずはシリコンバレー銀行特有の問題をあげています。

例えば、スタートアップ投資ブームの中で、テックカンパニーからの預金が大幅に増えて、預金者の属性に偏りがあったことがあげられます。

近年、スタートアップは投資家の現金の主な投資先であり、投資を受けたスタートアップはその大部分を SVB に預け入れました。これにより、SVB の預金は 2019 年末の 620 億ドルから 2021 年末には 1,890 億ドルへと 3 倍になりました。

また、スタートアップは通常ベンチャーキャピタルからのリスクマネーで運営されますから、あまり銀行からローンを借りる必要がありません。そのため、シリコンバレー銀行は、預金ばかりが増えて、貸出先がないという事態に陥りました。これが彼らを債券投資の加速へと駆り立てました。

SVB は積み上げられた現金を従来の銀行で使用することはほとんどなかったため、代わりに 2020 年から 2021 年の間に国債と米国政府機関の住宅ローン担保証券に 910 億ドルを投資しました。これにより、SVB の債券投資額は総資産の約半分になりました。(平均的な銀行では、その数字は約 4 分の 1 です。)

また、政策金利がゼロであったため、まだ金利のある長期債へのエクスポージャーが増えました。長期債ほど、金利上昇時には価格が下落します。

連邦準備制度理事会が昨年利上げプログラムに着手したとき、債券価格は急速に下落し、もちろん、債券の期間が長ければ長いほど、価値の下落は大きくなりました。短期的には、SVB の債券保有の市場価値は 210 億ドル減少しました。

預金はほとんどがスタートアップ界隈からであったため、ピーター・ティールのような著名投資家が投資先に預金の引き上げを薦めると、その噂があっという間に広がり、取り付け騒ぎとなってしまいました。

認識された損失は、結束の固いベンチャーキャピタルコミュニティ全体に否定的な噂が広がるのを早め、さらなる撤退につながりました。SVB の預金の非常に大きな割合 (94%) が 250,000 ドルを超えたため、FDIC によって完全に保証されていませんでした。これは、彼らが「小売」よりも「制度的」であることを意味していました。さらに、SVB の顧客は高度に相互接続されていました。多くの支援者が共通しており、お互いに近くに住んで働いており、ソーシャル メディアを通じてほぼ瞬時に情報を交換することができました。

通常、シリコンバレー銀行ほど預金者の属性が偏っており(一斉に引き出されるリスクがあり)、投資先がデュレーションの長い債券に偏っていることはありません。そのため、シリコンバレー銀行のような経営破綻が他の銀行でも起こることはないだろうというのがハワード・マークス氏の言い分です。

FEDも固い決意を持って、金融危機にならないように資金の流動性を提供したため、その意味でも金融危機の可能性は低いでしょう。

シリコンバレー銀行以外にも共通している問題


一方で、ハワード・マークス氏は、シリコンバレー銀行以外にも共通している問題もあると指摘します。

まず、共通しているのは、すべての銀行はレバレッジ比率の高い債券投資家であるという本質です。

共通して言えることは、本質的に、銀行とは高レバレッジの固定金利投資家だということです。そして、固定金利で投資された長期の債券やローンの価格は、金利上昇局面では必ず下落します。銀行は満期まで保有するのであれば、この評価損を認識する必要はありませんが、もしも預金の引き出しが相次げば、それに対応するために資産を売却して、財務状況を悪化させることとなります。

つまり、預金者の信頼を維持することは銀行の企業活動の中で必要不可欠な要素であり、資産と負債、流動性や自己資本は高い水準で管理されなければならないといえます。

預金という負債によってレバレッジを高めて、それを長期の固定金利商品に投資して差額を抜いているというのは、すべての銀行に共通です。だからこそ、「預金は安全でいつでも引き出せる」という預金者の信用があればこそ、すべての銀行は成り立っているのであり、預金が一気に引き出されれば、評価損が確定されて破綻するという仕組み自体は、どの銀行でも変わらないというわけです。シリコンバレー銀行の場合は、預金者がすべてテックスタートアップに偏っていたので、この預金の引き出しラッシュが起こる確率が高かっただけです。

預金者と銀行の警戒心は高まった


さて、今回のシリコンバレー銀行などの経営破綻を受けて、預金者は「ある程度の規模の銀行でも破綻するのだ」ということを再認識しました。また、銀行側も「これだけ一気に預金が引き出されることがあるのだ」と再認識しました。

こうした双方の認識の変化が何を招くかというと、信用の収縮です。

最近の4つの銀行の危機は確かに事態を揺るがす力を持っていました。また、経済や市場の参加者が動揺すると、その影響は深刻になる可能性があります。フランクリン・D・ルーズベルト大統領が大恐慌のさなか、1933年の就任演説で述べたように「私たちが恐れなければならない唯一のものは、恐れそのものです」。 物事は、物理的にも経済的にも接続されている必要はありません。市場では、一連の恐ろしい出来事が非常に強力な影響を与える可能性があります。

そもそも高金利のMMFなどに資金が流出していましたが、銀行の経営破綻が起きたことで、今後はますます預金流出は起きやすくなるでしょう。

そうすると、銀行は現金をたくさん持っておかなければならないため、融資を渋るようになります。テック企業からの預金など、逃げ足の早い預金の割合が高い銀行は、今回の事故を見て、特に貸し渋りを行うようになるでしょう。

商業不動産の領域は注意が必要


ハワード・マークス氏は、次に注意が必要な領域として、米国債よりもリスクの高い商業不動産の領域をあげています。

私は、SVB の失敗だけが原因で、心理的または経済的な影響が広範に及ぶとは考えていませんが、今日直面している最大の懸念の1つに言及せずに、米国の銀行に関するメモを終わらせることはできません。その懸念とは、商業用不動産(「CRE」)、特にオフィスビルです。

米国債はあくまでも評価損が出ているだけで、満期まで保有すれば額面が戻ってくる種類の投資です。そのため、FEDが米国債を担保に現金を貸し付けるというプログラムを開始して流動性を提供すると、その危機は去りました。

しかし、商業不動産投資への融資は民間の債権であるため、デフォルトする可能性があります。これは一時的な預金引き出しに対応できれば良い米国債のケースとは根本的に異なります。

バンク オブ アメリカの最近のレポートによると、平均CREローン・エクスポージャーは、資産が2,500億ドルを超える銀行では総資産のわずか4.5%であるのに対し、資産が2,500億ドル未満の銀行では11.4%です。

銀行のレバレッジは非常に高く、総自己資本はわずか2兆 2,000億ドル (総資産の約9%) であるため、平均的な銀行の CRE ローンの推定額は資本の約 100%に相当します。したがって、平均的な貸付金帳簿のCRE住宅ローンの損失は、平均的な銀行の資本の同等の割合を一掃し、銀行の資本が不足する可能性があります。

上で書いたように、銀行は預金という負債によって自己資本に高いレバレッジをかけて投資しています。そのため、商業不動産への投資額は資産の4.5%〜11.4%程度であったとしても、それは自己資本の100%といった規模に相当します。

もしも商業不動産へのローンの10%がデフォルトすれば、自己資本の10%を食い尽くしてしまうというわけです。自己資本規制比率を守るためには、自己資本が10%減れば、資産全体も10%減らさなければなりません。

1億円分の融資がデフォルトのたびに、何らかの資金調達によって自己資本を補えなければ、10億円といった規模でバランスシートを縮小する必要に迫られるわけです。バランスシートを縮小するというのは、新規の融資を控え、既存のローンや債券といった資産も売却するということです。それらの資産で評価損を抱えていれば、その行為自体がまた自己資本を規制してしまい、信用収縮のループが続きます。

目下、多くの不動産ローンは低金利下で融資が行われているため、デフォルトのリスクはあまり高くありません。しかし、2025年末までには多くが借り換えを迫られるとハワード・マークス氏は指摘しています。

金利は大幅に上昇しています。いくらかの借りては低金利下で借りた固定金利による恩恵を受けていますが、CREローンの40%程度は2025年末までに借り換えが必要です。固定金利であれば、借り換え時の金利は当然ながら上がることでしょう。

また、金利上昇によって不動産価格が下がっている点にも注意が必要です。

高金利は割引率を高めるため、多くの不動産価格が下落します。

また、商業不動産ローンについては、ノンバンクも多額の投資を行っています。銀行以外のファンド等から破綻のニュースが入ってくる可能性も今後あるでしょう。

結論:FEDは二択を迫られる


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