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ドラッケンミラー氏:今はリスクを取るタイミングではない

ポンド売りでイギリス銀行に勝利した男として知られるジョージ・ソロス氏のファンドで、投資アイデアを練って実務を担当していたのが、スタンレー・ドラッケンミラー氏です。

そんなスタンレー・ドラッケンミラー氏は、現在は自身の個人資産を運用しているだけで、資産運用業の第一線を退いているため、メディア露出は多くありません。しかし今回、NBIMのカンファレンスに出演しており、最新の見通しを知ることができました。そこで、今回はその内容をお届けしたいと思います。

チャンスボールがなければバットを振るべきではない


まず、現在の状況は過去に見たことがなく、先行きの予想が難しいことを打ち明けています。

金融経済環境の先行きを予想するのは非常に不透明だ。私は、投資を45年行っているし、経済史をたくさん勉強したが、金利ゼロの状況が11年も続き、あらゆる資産クラスがバブルな中で、12ヶ月の間に5%も利上げがされた、今のような状況は見たことがない。私のように、歴史から今後のありうるシナリオを考えるスタイルの人間にとっては難しい時期だ。

その上で、どのような運用をすべきかと訊かれると、以下のように回答しました。

最も大切なことのひとつは、チャンスボールがなければバットを振らないことだ。私は、いまの債券にはチャンスボールがあるとは思わない。非常に難しい状況だ。私は経済が今年後半にハードランディングすると考えている派閥に属しているが、状況は難しく、あまり大きな賭けをしたいとは思わない。

ドラッケンミラー氏ほどの歴戦の猛者でも、今の相場環境では自分の見通しに強い確信を持てないことが分かります。また、見通しが当たったとしても、今の債券の水準ではリスクとリターンの釣り合いが悪いと述べています。

ハードランディングを予想するなら債券を買うべきだが、米国2年債金利が4%で、FF金利が5.25%の中で何ができるだろうか。絶対に当たるのでなければ割に合わない。長期債の方を見ても金利3.5%では大バーゲンには見えない。

ドラッケンミラー氏の言う通り、米国の金利はここ1ヶ月で随分と下がりました。

米国10年国債金利(2023年4月29日執筆時点)/ Investing.com

トレードをするにあたっては、あるシナリオ(ex.景気後退)が相場に織り込まれる前に買っておく必要があり、そのシナリオが価格に織り込まれた適正価格がついている状態では投資妙味はありません

僕自身が債券を買い増したのも、2月に長期金利が4%あったタイミングで、これはシリコンバレー銀行の経営破綻が起こる前です。

今でも米国債がメインのポートフォリオ比率を維持していますし、今後も維持します。しかし、ポートフォリオ比率は維持したまま、ポートフォリオ全体のサイズについては落とすという方針は、4月14日のニュースレターで検討を始めたタイミングから繰り返しお伝えしてきた通りであり、その過程で、債券も他のアセットと一緒に一部売却を進めています

ポートフォリオのサイズを落としているのは、まさにドラッケンミラー氏の言うように、先行きの見通しが難しいことの加えて、積極的に何らかのリスクを取るに値する価格水準でもなくなったからです。先日のニュースレターで、米国の経済指標を総点検した際にも、結論として以下のように書きました。

改めて多くの指標を見てきましたが、ポジションとしては、来年末には3%までFF金利が下がることを既に織り込んでいる債券をさらにこの水準で買い増すほどの強い景気後退の確証は得られず、景気の減速が見えている中で、株式をさらに買い増す気にもなりません。今のポートフォリオを維持して様子をみる予定です。

この辺りの「投資妙味がある水準か」(リスクを取るに値するリターンが得られるか)の感覚はトレーディングをするにあたっては非常に重要です。

それは時と場合によっては、経済環境の先行きを正しく当てる以上に重要です。

例えば、今と同じ先行きの見通しでも、米国10年債金利が4%以上あれば、あるいは米国2年債金利が4.5%以上あれば、投資妙味は変わってくるからです。

ぜひ、以下のハワード・マークス氏の投資哲学について書いたニュースレターもあわせて読んでいただきたいところです。

景気後退からのインフレ第二波がメインシナリオ


さて、今はあまり積極的な投資を行うタイミングではないと述べたドラッケンミラー氏ですが、彼のメインシナリオは見ておきましょう。

ドラッケンミラー氏は、先ほども書いた通り、ハードランディング、つまり深い景気後退をメインシナリオと考えています。これは直近の銀行の混乱が信用収縮を招くからでしょう。この点については、過去に他の著名な投資家や経済学者の意見を紹介してきました。

その結果、FEDは金融緩和に転じて、それがインフレ第二波を引き起こす可能性が比較的高いとドラッケンミラー氏は考えているようです。

FEDは昨年は鋼の意志を見せた(利上げを強行した)が、ジェローム・パウエルの過去を振り返ると勇気のある人間だとは思えない。だから、ハードランディングになると、大胆な金融緩和に転じてしまい、インフレーションが戻ってくる可能性もある。シリコンバレー銀行の経営破綻への対応も私を心配させている。なぜなら、たったの4日間で5〜6ヶ月分のバランスシート縮小の効果を相殺してしまったからだ。だから、先行きを考えたとき、ハードランティングの中で彼らが失敗をせずにやりきると信じることはできない。

シリコンバレー銀行の経営破綻への対応でFEDが実質的に量的緩和を再開している点についても、本ニュースレターではいち早くお伝えしていました。本ニュースレターでは、世界トップクラスの投資家の頭の中に匹敵する水準の情報を日々お伝えできるよう努力しています。

大胆な金融緩和に転じてしまうだろうというのも、レイ・ダリオ氏やガンドラック氏と同じ考えのようです。

一方で、誤解のないように補足しておくとすれば、ドラッケンミラー氏は「ハードランディングのシナリオが現実となった場合」にFEDがインフレ第二波を招いてしまうことを懸念しています。

逆に言うと、FEDがインフレ第二波を招いてしまう可能性が高いのは、あくまでもハードランディングとなった場合です。そして、ハードランディングのシナリオが現実となるかどうかについては、強い確信はないから現在は債券のポジションを取っていないと彼自身は述べていたことも先ほど確認した通りです。

つまり、失業率の上昇とインフレの再来の二者択一を迫られた場合には、(ドラッケンミラー氏に言わせれば「勇気の無さ」から)インフレの再来を招いてしまう可能性はあるものの、実質GDPなどはマイナスに転じる中で雇用の強さは維持される「ソフトランディング」となった場合は、二者択一を迫られないので、FEDが金融引き締めを続けて、インフレを一定抑え込める可能性もまだ残っているということです。

僕自身、ゴールドに投資妙味があると繰り返し書いてきましたが、同時にまだ8%程度しか保有していないことも繰り返しお伝えしてきました。それは可能性は低いと思うものの、後者のソフトランディング&金融引き締めが長く続くシナリオがありうるからです。

この辺りは、以下のニュースレターで過去に書いた通りです。

そして、どちらになるかをなるべく早めに見極めるために、経済指標の内容を日々ウォッチしています。

改めて、今の環境は非常に複雑だと思います。

暇つぶしの投資


そんな中で、どんなポジションを取っているかと訊かれて、「投資ジャンキーだから、じっとしていられない」と言って会場の笑いを誘ったドラッケンミラー氏は、主に以下のようなポジションを取っていることを明かしました。

  1. 株式のロング・ショート戦略
  2. ドル安にかける投資

株式については、ロングするほど強気ではないけれど、中には良いと思う株もあるので、良いと思う株のロングと、ハードランディングで大きく下がるであろう株のショートを組み合わせることで、全体としては株式のポジションをプラマイゼロに保ちつつ、リターンを得ようということです。

ドル安に関しては、こちらについては少し確信が強いと発言しており、ドルのショートやゴールドのロングなどのポジションをいくらか保有しているようです。

相対的に見て、米国での金融引き締めは他国に比べると弱くなるだろう。また、ドルを武器化しており、なぜ(国際取引の場で)米ドルで取引をしなければならないのかと言って回る人も出てきている。歴史的に見て、私たちは法の支配やいろんな信頼があった(がそれが失われている)。だから、私が取っているリスクはドル為替の取引くらいだ。だが、急いでドルのショートに走らないように。1週間後には私の考えが変わっているかもしれないから。同じ理由でゴールドをロングしている。

ドルの弱体化については、以下のニュースレターも参考にしていただけると嬉しいです。

いずれにせよ、ドラッケンミラー氏の言う通り、投資ジャンキーで何かしていないと気が済まないが故の「暇つぶし」あるいは「お茶を濁すような投資」をしている程度だということです。

結論:勝負をするタイミングではない


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