ドラッケンミラー氏:「年金は大丈夫」という政治家は詐欺師
さて、引き続き、ドラッケンミラー氏のインタビューをお送りしています。ドラッケンミラー氏は、以前よりドルに対してネガティブな見方をしていますが、その背景に深く入っていたので、今回はその部分をお伝えします。
債務上限問題よりも本質的な年金問題
まず、現在米国は債務上限問題で騒いでいますが、ドラッケンミラー氏はより本質的な問題を指摘します。
近い将来の2040年には、年金と金利の支払いが税収を超える。2052年には、税収の117%となる。
先進国は基本的に慢性的な赤字に陥っていますが、年金と負債の利払いだけでも赤字になってしまうというのは、根本的に構造問題を抱えていることになります。そうした構造問題と素直に向き合わない政治家をドラッケンミラー氏は詐欺師だと切り捨てています。
年金の支払いカット以外の資金源はなくなる。お金はそこにある。私たちは、確実にこの国の年金をカットすることになる。「年金をカットしなくても大丈夫」という言論は嘘か妄想だ。
そして、支出を削って、負債を減らさなければ、その間、利払いを続けることになります。今のアメリカは長期金利が4%もある世界ですから、これは大きな問題となるでしょう。
問題は、いまカットするか、将来カットするかの二択だ。あとでカットすると、その間の(米国債での調達に対する)金利支払いが生じる。すでにGDPの8%〜12%である金利支払いがさらに大きくなるだろう。
こうした構造問題がドラッケンミラー氏がドル安を予想する理由です。構造的に赤字が拡大するばかりの政府にいつまでも世界の人がお金を貸すでしょうか。いずれ、人々は新たな覇権国の通貨やゴールドへと資産を移していくでしょう。
過去のニュースレターでは、レイ・ダリオ氏の、覇権国の基軸通貨は歴史上、常に没落してきたという指摘もお伝えしています。
サウジアラビアと中国が貿易を行っているとして、どうして米ドルで決済をする必要があるだろうか。米ドルを使う理由もないし、米ドルを持つことで経済制裁の対象になる可能性もある。だから、それらの決済の多くが他の通貨で行われるようになり、資産保全手段としての米ドルの利用価値も低下する。
世代間の利害調整は必要不可欠
さて、年金のカットを避けられないのに、政治家がこの問題に取り組まないのは、高齢化が進んだ社会では、高齢者の票を失うわけにはいかないからです。しかし、それは将来世代から現役の高齢者世代に富を移転していることに他なりません。
年金をカットすると今の高齢者世代にどれだけ問題があるかが論じられているが、未来の高齢者世代はどうなるだろう。なぜ今の高齢者世代は支払いを100%受けられるのに、将来の高齢者世代は0%しかもらえないのだろう。意味がわからない。
しかし、年金と負債の利払いだけをしていて、国家は発展するでしょうか。将来世代や設備に投資をしなければ、新たな富は生まれません。ドラッケンミラー氏は、いち早く年金をカットして、投資に回すことの重要性を指摘しています。
年金問題に対応しなければ、あらゆるものが失われてしまう。政府投資も民間投資も、すべての資金源が(年金に)奪われてしまう。
とはいえ、こうした問題に対処するために必要な金額はすでにGDPの7.7%にも達しています。そのため、米国はこの問題に対処して国家の力を維持することは難しく、いずれ衰退に向かうだろうというのがドラッケンミラー氏の見方でしょう。
将来世代に約束した支出を果たすために必要な増税額をフィスカルギャップというが、これはいまGDPの7.7%だ。つまり、年金の支払いを減らさずに今の状況を解決したければ、7.7%の増税をしてそれを維持するか、支出を35%カットしてそれを維持するかの二択だということだ。実際には、それが経済に悪影響を与えるので、それよりも悪いことになる。
福祉国家で知られるフランスは、まだ必要な金額はGDPの2.4%であり、早めに対処をしようとしています。
私たちのフィスカルギャップは7.7%で、社会福祉国家であるフランスは2.4%だ。だから、私たちの3分の1程度の問題だが、彼らはそれに対処しようとしている。
フランスと違って、米ドルは世界の基軸通貨であるために、(少なくとも過去と目先は)世界中から需要があります。それが慢性的な赤字構造が膨らむのを許してしまったといえます。
日本の状況はさらにひどい
では、僕たち日本はどうかということですが、日本の国民年金と厚生年金をあわせた金額は現在年間52兆円程度で、国債の利払いが年間15兆円程度です。これに対して、税収が68兆円程度です。そうすると、今ちょうど年金と国債の利払いが67兆円で税収とバランスしています。
今後、年金の支払いが増えて、金利も上昇すると、アメリカのように2040年を待つことなく、日本では年金支払いと国債の利払いだけで税収が失われるでしょう。
また、政府負債の対GDP比は、以下のようになっています。
もちろんバランスシートには負債だけでなく資産があります。とはいえ、日本政府の負債1400兆円に対して、資産は700兆円程度ですから、はっきり言って、日本の状況はかなり厳しいといえるでしょう。
このような状況にある日本政府に対して、わずか0.5%の金利で10年間もお金を貸したい人がどこにいるでしょうか。こうした状況はいずれ金利上昇、円安とインフレ、増税のいずれか、あるいはその全てによって修正されるでしょう。
結論:「安全資産」の概念を変える
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